- 最近、Microsoft が Surface Pro 11という「ARM」を使ったパソコンを発売しました。
- これがきっかけで、「ARMパソコンだと知らずに買ってしまう人」が増えるかもしれません。
なぜ、これが問題なのでしょうか?
それは ARM がこれまでの x64 などと異なる設計のプロセッサだからです。
1. ARMプロセッサ
まず、ARMとは「Advanced RISC Machine」の略。
スマートフォンやタブレットでよく使われている「プロセッサ(頭脳)」の種類です。
それが、パソコン用のプロセッサとしても利用されるようになってきました。
1-1. x64 と ARM
これまでのパソコンでよく使われていたのは「x64」や「x86」と呼ばれるプロセッサでした。
主な違いは、命令セットの複雑さ。
それによって、処理性能と消費電力に違いがあります。
簡単に言えば、ARMは「省エネで長持ち」、x64は「パワフルだけど電気をたくさん使う」というイメージです。
ARMの「R」は、「RISC(Reduced Instruction Set Computer )」。
これは、単純で少ない命令セットの組合せで計算処理をする仕組みです。
特性 | x64 | ARM |
---|---|---|
命令セットアーキテクチャ(ISA) | Complex Instruction Set Computer (CISC) 複雑で多様な命令セット | Reduced Instruction Set Computer (RISC) 単純で少ない命令セット |
レジスタ数 | 比較的少ないレジスタ数 | 多数の汎用レジスタを持つ |
メモリアクセス | メモリ-メモリ操作が可能 | Load-Store アーキテクチャ (データ処理とメモリアクセスが分離) |
パイプライン設計 | 複雑で深いパイプライン | シンプルで予測しやすいパイプライン |
命令の長さ | 可変長命令 (1バイトから15バイト) | 固定長命令 (通常32ビットまたは16ビット) |
1-2. RISCベースのプロセッサの省電力設計
RISCベースのARMプロセッサは、シンプルな命令セットを採用しています。
そのため、各命令の実行に必要なトランジスタの数が少なく、電力消費を抑えられます。
命令のデコードに関しては、ARMの固定長命令はデコードが簡単で電力効率が良いのに対し、x64の可変長命令はデコードにより多くの電力を必要とします。
最後に、x64アーキテクチャでは、互換性のために古い命令セットをサポートする必要があります。
そのため、使用頻度の低い回路も常に電力を消費してしまうのです。
2. なぜARMが注目されているの?
ARMはスマートフォン向けに開発されました。
スマートフォンとタブレットの普及により、低消費電力で高性能なプロセッサの需要が急増しました。
ARMはこの市場に最適化されていたため、急速に採用が進みました。
また、低消費電力で小型のARMプロセッサは、IoT(Internet of Things)デバイスの市場の成長とともに利用が拡大しました。
2-1. Microsoftの戦略とARM
デスクトップPCやハイエンドサーバーなど、高性能コンピューティングが求められる分野では、x86/x64版アーキテクチャは依然として強みを持っています。
しかし、それでも Microsoftが ARM版Windowsを積極的に推進するのは、LTEや5Gの接続を常時維持できる「Always Connected PC」の実現を目指しているからです。
あとは、将来的には、スマートフォンのアプリがパソコンでも使えるようになるかもしれません。
ARMプロセッサを採用すると、長時間バッテリーが持つようになります。
省エネなので、冷却ファンも小さくて済みます。
ファンが小さいか、場合によっては不要なので、動作音が静かです。
結果、パソコン全体が薄くて軽くできます。
スマートフォンやタブレットといったモバイルデバイス市場でのシェア拡大を目指しているのです。
2-2. M1チップやAI処理
AppleのM1チップをはじめとする、競合他社のARMベース製品に対抗することも、ARMプロセッサに注目する理由の一つです。
ARMコアを中心に、GPU、AI処理ユニット、通信モデムなどを1つのチップに統合するSoC(System-on-Chip)設計が進化。
これにより、高性能かつ効率的なシステムの構築が可能になりました。
ARMは、AI処理に特化したユニットをSoCに統合することで、効率的なAI処理を可能にしました。
2-3. データセンターと電力
データセンターの電力効率が重要視されるようになってきました。
ARMプロセッサは、クラウドサービスのサーバーにおいても優れた省電力性能を発揮します。
これはMicrosoftのクラウド戦略とも合致しています。
ARMベースのデバイスメーカーやソフトウェア開発者を取り込むことで、Windowsのエコシステムを広げていく方針です。
3. 古いソフトの互換性に注意
ただし、ARMパソコンは従来のソフトウェアに調整が必要な場合があります。
ARM版でも、エミュレーションによって、これまでのパソコン用ソフト(x86アプリ)を実行可能なはずです。
しかし、処理速度に影響する場合がありますし、動かないものがあるかもしれません。
メンテナンスが終了しているようなソフトウェアの場合は、利用できなくなるかもしれません。
3-1. でも、将来的には気にしないでもよくなるはず
パソコンを選ぶときは、自分の用途に合っているかをよく確認することが大切です。
ARMパソコンは、バッテリーの持ちが良く、軽量で静かという利点があります。
一方で、ソフトの互換性に問題があるかもしれません。
ただし、技術は日々進歩しています。
現時点のARMパソコンの問題点も、将来的には解決されていくでしょう。