- 最近、インターネット検索が「物足りない」と感じることが増えました。
自分以外にもそういう声をよく聞きます。 - これは「情報エコシステムの断絶」という文脈でとらえてみると、わかりやすいかもしれません。
- 人為的なアルゴリズム変更によって、大手以外のサイトをまとめて「駆除」しようとしたせいで、かえってニッチが生まれ、質の悪いサイトが増殖したようなのです。
広告表示のためにハリボテ情報を上げまくる人々と、気に食わない情報をすぐに叩く人々が可視化されてしまって、情報の流通が阻害されているみたい。
自然環境への人為的な介入は、えてして逆効果になりがちですよね。
検索アルゴリズムの変更という介入は、かえって「エコシステム」を混乱させてしまうのかもしれませんね。
1. 個人ブログが消えた
「Googleの検索結果が大手メディアの記事に偏り、個人のブログや記事がほとんど表示されなくなった」
という指摘が増えています。
端的に言って、「インターネットはつまらなく」なりました。
以前は、個人が記録したメモや特殊な事例の処置方法などが検索で簡単にヒットしていましたが、今はそういった情報がインターネット上で見つけることが難しくなっています。
専門的でマニアックな情報や、特定の問題に対する個人の知見などが見つかりにくくなっています。
「情報エコシステム」とは、個人、技術、組織、ポリシーなどが相互作用に合って、情報の生成、配布、消費、共有を行うネットワークです。
インターネット、メディア、SNS、検索エンジン、そしてそれらを利用する人々は、ちょうど「森の生態系」のように相互作用して、情報を生成、配布、消費、共有しています。
インターネットの生態系での「絶命危惧種」ってことだね。
2. Googleによるメディア選別
この変化を直接的に引き起こしているのは、インターネット検索の「コア アルゴリズム アップデート」。
最近は、個人サイトよりも大手サイトを優遇する方向に進んでいます。
検索結果の質を向上させるためのものですが、なかなか想定した結果にはならないことも多いです。
2023年10月のGoogle検索の更新では、大きな変動がありました。
このアップデートでは、Google Discover に掲載するメディアの基準を「少し」変えたようなのです。
Google Discoverは、GoogleアプリやChromeの新しいタブで表示される、ニュース一覧のことです。
Googleが、ユーザーの興味や過去の検索履歴に基づいて、ニュース、記事、ビデオ、ブログポストなどを表示します。
2-1. Discoverに優先的に載るサイトが厳選された
2023年10月のアップデートでは、特に「ドメイン制限」が強化され、以前に比べてGoogle Discoverに掲載されるドメイン数が激減しました。
ところが、 Google Discover の「小さな変更」によって、検索全体に「大きな影響」が波及しています。
多くのメディアサイトにとっては、Google Discoverは重要な流入源。
掲載されなくなると大幅なアクセス減になってしまいます1。
多くの小規模メディアは排除され、運営が困難になっているところも2。
2-2. 中古ドメインと生成記事
もともと、このようなアルゴリズム変更をした理由は、「質の低い情報サイト」を排除するため。
しかし、皮肉なことに、これが質の低いメディアが増やす結果にもなっています。
生成AIによって作成された記事なども Google Discover に紛れ込んできているのです。
信頼性を評価する材料として、ドメインの継続年数などを重視しているのですが、「中古ドメイン」の販売などで「偽装」できてしまうのです。
2-3. Discoverでの反応が検索ランクにも影響
さらに、これは間接的に検索結果にも作用するようです。
メディアサイトが記事公開した時の初動アクセスが減ると、ほかの一般サイトに対する検索結果での優位性も失われてしまうのです。
つまり、「中堅メディア」が「有象無象」のサイトと同じ条件になってしまったのです。
結局、「中堅メディア」の露出が減って生成AI記事が増えてしまって、検索結果全体の品質が下がっているようなのです。
生態系と一緒だね。
大手以外のサイトをまとめて駆除したから、かえってニッチになって質の悪いサイトが増殖したのか。
とはいえ、Google自体が生成AIを開発しているにも関わらず、コアアップデートでこのようなメディアを排除したのは不可思議です。
ただし、結果としてウェブ上の情報が一部の企業によって独占的に操作される可能性があります。
3. MFAサイトの増殖
広告でお金を稼ぐ目的で作られた質の低いウェブサイトのことを、
「MFA(Made For Advertising)」サイトといいます。
広告を出す企業にとっても、ウェブを使う人にとっても厄介なものです。
日本では、こうしたサイトに年間100億円以上もの広告費が無駄に使われていると考えられています3。
「MFAサイト」は、内容よりも広告が多く、勝手に更新されたり、動画広告が自動で流れたりします。
また、人を集めるためにお金を使い、広告で稼ぐというやり方を取っています。
内容は機械的に作られたもので見た目も安っぽく、情報も古かったり、面白みがなかったりします。
特に、生成AIなどのプログラムが一般的になって、「情報サイトっぽいもの」の製造コストが下がりました。
すぐに出来上がるので、このようなサイトが増えています。
「迷惑メール」などと同じで、コストが限りなく低くなると、少ない利益でも「採算が合って」しまうのです。
- 見る人にとっては、手前に出てくる広告が邪魔して、なかなか知りたい情報にたどり着けず不快です。
- 企業にとっても、広告の効果も下がり、広告費を無駄にしてしまいます。
- さらに、MFAは、まっとうなメディアの広告収入を奪うので、ネット全体の情報の質を下げてしまいます。
これは、企業にとっても由々しき事態。
資生堂や三井不動産のような企業では、問題のあるサイトを見つけるツールを強化しているようです。
インターネット広告のビジネスモデルも変化していくかもしれません。
広告を出すときに、表示数だけでなくメディアの信頼性を確認する必要が出てきます。
定額制サービス、小額の支援、またはスポンサーと直接結ぶ形など、新しい方法も増えてきています。
4. Discordに潜る
最後に、「価値のある情報が、検索上に上がらない」という傾向も出てきています。
それが、公開コミュニティから閉鎖コミュニティへの移行です。
とくに、技術的な情報は、Discordで情報を共有する比重が増えているようです。
この背景の1つに、「心理的安全性」の問題があります。
Twitterなどの公開されたプラットフォームでは、発言に対して予期せぬ批判が飛んでくる可能性があります。
「クソリプ(的外れな批判)」ってヤツだね。
その点、Discord は、同じ関心や目的を持つ人々が集まります。
話の流れを共有しやすく、より深い議論や的確なアドバイスが得られるメリットがあります。
しかし、この「閉鎖性」には負の側面も。
一般的なウェブ検索では、Discord内の情報にアクセスできないため、重要な知見が公開されません。
検索しても有益な情報がなかなか見つからず、専門知識や有益な情報が一部の人々に限られてしまうのです。
インターネットの初期には多くの専門知識が共有され、情報アクセスの民主化が進んでいました。
この「集合知」の幻想が消えてしまったようです。
でも、これってSNS上でのコミュニケーションの問題点を浮き彫りにしているわけだよね。
みんなが気持ちよく使えるように、お互いを尊重しないと。
(補足)
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