- ステータスバーの「アンテナ本数(モバイル接続:電波状況)」は、スマートフォンが受信している電波の強さを示しています。
- 「電波がつながらない」ときは、dBm(電波強度)を確認します。
- 「通信が遅い」ときは、kbps(通信速度)を確認します。
1. 携帯電話情報のテスト
「アンテナ本数」は、電波強度をわかりやすく段階的に表示したアイコンです。
「電波強度(transmit power)」や「通信速度(transmission speed)」の詳しい数値は、スマートフォンの電話アプリで特別な「電話番号」を入力して確認できます。
- Androidスマートフォン:「*#*#4636#*#*」
「テスト中」になると、その場所での電波強度が表示されます。
そのまま移動すると、数値もリアルタイムに変動します。
そこで、電車で移動しながら、いろんな場所のアンテナ本数と電波強度(dBm)を測ってみました。
2. 電波強度 dBmとは?
「dBm」ってなに?
アンテナ本数は、電波強度「dBm」の数値で決まっています。
dBmは、電波だけでなく光ファイバーなどの信号の強さを表すのに用いられる単位です。
正式には「デシベルミリワット:decibel-milliwatts」です。
dBmは、電波を送信するときの強さ(送信機の性能)を比較するのにも使われますし、受信した電波の強さ(電波状況)を比較するにも使われます。
2-1. アンテナ本数とdBmの関係
受信した電波の強度は、発信源の電力と距離などの減衰要因で変わります。
それを比較するための単位が dBm(デシベルミリワット)ということになるのです。
また、音を拾うマイクの感度のように、アンテナにも性能差(電波利得:ゲイン)があります。
つまり、発信源の電力が強かったり、距離が近かったりすれば、 dBmの数値が大きくなります。
それをもっとわかりやすくしたのが、ステータスバーにある「アンテナ本数」というわけです。
Pixel 5では、0〜4 までの 5段階になっていました。
dBmの数値とアンテナ本数の対応関係は、機種によって異なるようです。
体感的には、アンテナ本数が 0, 1 だと接続が不安定ですが、
2本以上であれば、インターネット接続できています。
ちなみに、このアイコンは「インターネット: モバイル接続(電波状況)」を示します。
微妙な違いですが、音声通信(電話)ではなく、データ通信の接続状況を表しています。
3. 電波によって電流が流れ、電力が生じる
受信した電波の強さを知るには、電波がどのように生まれるのか見ておきましょう。
携帯電話が電波を送信する時は、アンテナに電流を流します。
このときに流すのは周期的にプラスとマイナスが入れ替わる「交流電流」です。
アンテナの電流の向きが周期的に変わると、周囲の磁束密度と電界にも周期的な変化が発生します。
それがさらに周囲に交互に伝わっていくことで、「電磁波(電波)」が発生します。
この不思議な仕組みは、「アンペールの法則(電流とそのまわりにできる磁場との関係をあらわす法則)」や「ファラデーの法則(電磁誘導において、1つの回路に生じる誘導起電力の大きさはその回路を貫く磁界の変化の割合に比例する)」という物理法則で説明されます。
運動会の「ウェーブ」みたいな感じなんだね。
電磁波を受信する時は、逆のことが起こります。
周囲にある電磁波によって、アンテナに誘導電流が発生します。
この電流を受信機が電気信号として受け取るわけです。
この受け取った電流によって生まれる「電力」の多い・少ないが、電波強度になります。
音声に例えると、
声帯を震わせて生じた空気の振動が、
さらに 鼓膜を共振させることで「聴く」ことができます。
声帯が発信器、空気の振動が電磁波、鼓膜がアンテナとすると、
アンテナで生じた「電力」は、鼓膜の共振によるエネルギーに相当するわけです。
電磁波は、周波数によって便宜的に区別されています。
赤外線や可視光線、紫外線や放射線(X線やガンマ線)など。
電波法では、3THz以下の電磁波を「電波」と定義されています。
3-1. 電波は減衰する
電波そのものは、どこまでも伝わって行きます(理想的には)。
しかし、中心から離れ 拡散していくうちにエネルギー密度は小さくなります。
これが受信した電波の「強弱」です。
電力 Pで電波を発信している点から距離 dの位置での
単位面積当たりの電力密度 PD は、
PD = P/4πd2
で求められます(自由空間では)。
要は、電波のもつエネルギー(電力)は、距離などによって減衰していくわけです。
発信源から遠かったり遮るものがあると波が弱くなるのは、なんとなくイメージできるよ。
実際には、電波の周波数や遮蔽物なども関係します1。
3-2. 電波の強さは電力密度
dBmはどうやって測られているの?
dBmは「電力レベル」の単位で、
1ミリワット(mW)の電力が基準値です。
つまり、0 dBmは 1mW(基準値そのまま)。
-10 dBm なら 0.1mW(10分の1)です。
そもそも「デシベル (decibel:dB)」は、基準量との比の常用対数(10の何乗か)で表した計量単位です。
すごく大きな値もすごく小さな値も扱う場合には、対数を使うと桁数をおさえた見やすい数値にできます。
+1B(ベル)は 10倍の意味ですが差が大きすぎるので、
+10dB(デシベル)で10倍になるように 単位の方を10分の1にしています。
例えば、スマートフォンで測ると、
-90dBm でアンテナ4本、
-110dBm だとアンテナ2本になっていました。
これは、-90 dBm なら 1 pW、
-100 dBm なら 0.1 pW 、
-110 dBm なら 0.01 pW に相当します。
この小さな電力が、電波によってアンテナで生じた誘導電流の電力なのです。
アンテナが1本少ないとだいたい -10dBmぐらいだし、10分の1の強さになのか。
地震の「マグニチュード」みたいなものね。
マグニチュードは +2 で 1000倍です。
底(√1000 ≒ 31.6)は違いますが、対数の考え方は似ていますね。
「ケタ違い」の量を比較するのに便利なのです。
4. 通信速度は kbps
ところで、dBmは通信速度ではありません。
いわば「声の大きさ」であって、「話す速さ」ではないのです。
声が小さすぎると、聞き返したりでやり取りに時間がかかります。しかし、いくら声が大きくてもゆっくり話すならやっぱり時間はかかります。
モバイル通信で「話す速さ」に直接 相当するのは、通信速度で kbps で表されます。
「kbps(キロビット毎秒・kilobit per second)」は、一秒間に何ビットのデータを転送できるか、を表します。
4-1. バイトとビット
通常はデータの大きさを測るには「GB(ギガバイト)」などのように、「バイト(Byte)」単位を使います。
「ビット」は、バイトより小さい情報量の単位です。
「0」「1」の情報を表す、最小の情報量です。
「バイト」は、8ビットをひとまとめにした情報量で、
0〜255(あるいは-128〜127)の 256個の値を取ることができます。
この1バイトは、英数字などの「文字」や単純な「数値」を記録するのに「ちょうどよいサイズ」で、広く使われています。
1Byte = 8bit
「テキストファイル」では、半角英数字は1文字・1バイトです。
日本語の文字はだいたい1文字が2〜3バイトです。
例えば、400字の原稿なら、約1000バイト(1キロバイト)程度になります。
4-2. どれぐらいダウンロード時間に違いが出るの?
ダウンロードにかかる時間は、通信速度とデータサイズでおおまかに見積もることができます(厳密には通信の開始・終了・エラーチェックなど余分な通信が必要で、もっと長くなるはずです)。
例えば、LINEにある 26秒の動画ファイルのデータサイズが、2.17 MB でした。
スマートフォンは4Gネットワークにつながっていて、DL帯域幅が 5384kbpsと表示されていました。
およそ何秒でダウンロードできるのでしょうか?
とりあえず素直に計算してみると、
2.17 MB / 5384 kbps = (2170000 * 8) / (5384 * 1000)
= 3.2 秒
ビット単位に揃えてから速度で割って、時間を計算します。
だいたい数秒、というのは実感に近いですね。
1kbpsでは、一秒間に1000ビットの情報を伝達する速度です。
バイト単位にすれば、125B です。
一秒間に 1KBではない点には注意が必要です。
一方、月のデータ通信量を使い果たしたあとの「低速モード(最大300kbps)」でも同様の計算をしてみます。
2.17 MB / 300kbps
= 57.8秒
これだと、おそらく約1分以上の時間がかかることになります。
途中で「時間切れ(タイムアウト)」で失敗することもあります。
この通信速度だと、YouTubeなどのストリーミング動画の場合は、転送速度が再生速度に追いつかなくなります(画質にもよりますが)。
カクカクしたり、グルグルと読み込み中になってしまうのはこれが理由です。
5. 4G+(LTE CA)が速いのは?
ステータスバーで見ていると、「4G」と「4G+」の違いがあります。
このときの転送速度を計測していると、
4G が 6,860 kbps に対して、4G+ で 9,475 kbps でした。
「4G+」での違いを比べると、「優先ネットワーク」に「LTE CA」と書かれています。
この「CA」は、「キャリアアグリゲーション(Carrier Aggregation)」の略です。
LTEの発展形で、4Gネットワークの複数の周波数帯を同時に使用して、通信速度や安定性を向上させる技術です。
近くの基地局が LTE CAに対応している場合は、やや高速に通信できているのです。
かんたんに言えば、「4G回線」には、普通の LTE と 速度の速い LTE CAがあるのです。
「キャリア(Carrier)」は、電波信号の担い手。
「アグリゲーション(Aggregation)」は、「集計」や「集約」を意味します。
5-1. NSAとEN-DC(4Gと5Gを兼用する)
ちなみに、ここの「EN-DC利用可能(NSA)」っていうのは何?
これは 5G回線に接続する場合には重要ですが、
4G回線に接続する場合には直接関係ありません。
一応、説明すると…
「NSA」は、は「Non-StandAlone」の略です。
「SA:StandAlone」が 5G回線だけを利用するのに対し、
「Non-StandAlone」は 4G回線と5G回線を同時並行で利用します2。
まだ 5Gエリアが全域をカバーしていないための「苦肉の策」です。
NSA方式では、5Gエリア内の通信でも、通信の制御情報(C-Plane:コントロールプレイン)は LTE周波数帯域で提供されます。
実際のデータ送受信(U-Plane:ユーザープレイン)では 5G用の周波数帯域を活用します。
この方式は、4G回線と5G回線をスムーズに切り替えられる反面、5G回線でも補助的に4G回線が必要になります。
電話の「音声回線」と「信号線」みたいな感じだね。
「NR」は、「New Radio」で 5G回線のことです。
「EN-DC」は、「E-UTRAN New Radio – Dual Connectivity」の略です。
「E-UTRAN」が4G回線、「New Radio」は5G回線のことを指し、
両方を使う接続方式に対応していることを示しています3。
5G回線が完全に普及すれば、「SA:StandAlone」で通信の制御情報も5Gで提供できるようになります。
よりシンプルになるわけです。
ふーん、なんかよくわからないけど、5Gと4Gの回線を「仲良く」使うためには、細かな工夫がいっぱいあるんだね。
5-2. Hが遅いのは?(3G High Speed)
もう一つ、今度は通信速度が遅い場合に、H と表示されることがありました。
この「H」は「High Speed」の頭文字ですが、今となっては高速ではありません。
「FOMAハイスピード」という電波の種類で、3G回線の中では速い通信方式なのです。
Hが表示されるのは、LTE(4G)につながらない場所です。
次善の策として「3G H」に切り替わっていたのです。
あれ?
「3G」は終了したんじゃなかったんだっけ?
3Gの終了の時期は、キャリアによって異なります。
- auでは 2022年3月末(済)、
- ソフトバンク・ワイモバイルでは 2024年1月末、
- ドコモでは 2026年3月末
に予定されています。
今回の SIMはドコモのネットワークに接続しているので、既存の「3G H」につながっていたのです。
(補足)
- 電波は、自由空間では先ほど示した「距離の2乗に比例して減衰する」という特性に加えて、「波長の2乗に反比例する」といった特性をもっています。 – 電波の伝わり方:減衰 | 無線通信の基礎 -無線はむずかしい?- | TechWeb
- SA/NSA : モバイルテクノ
- 英語の“E-UTRAN New Radio – Dual Connectivity”の略なのですが、ENDCが適合して、初めてその端末が、NSAの5Gの基地局にユーザー機器が接続できる、つまりその事業者の5Gサービスに接続できることになります- 第948回:アンカーバンドとは – ケータイ Watch