「自分はヤフーだからグーグルは使えない」はなぜ生まれるのか

「自分はヤフーだからグーグルは使えない」はなぜ生まれるのか
  • Yahoo!とGoogleは同じインターネット上に乗る別々のサービスで、ブラウザ・サイト・検索エンジン・アカウントは組み合わせて利用できます。
  • ただ、「Yahoo!を使っている」というとき、これらの層を意識せず、「Yahoo!のインターネット」と「Googleのインターネット」が別物として感じていることがあります。
  • もしかすると、この感覚はパソコン通信時代の「NIFTYに入会する」体験がインターネット利用に引き継がれたものかもしれません。
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1. Yahoo!とGoogle検索

先日、スマートフォンの授業の中でこんな場面がありました。

そのひとは、Yahoo!アプリをブラウザとして日常的に使っていて、ニュースを見たり、ときどき天気を確認したり、というのが「インターネットの使い方」でした。
そこで、Androidのホーム画面にあるGoogle検索バーを使った「インターネット検索」を紹介しました。

すると、その人はこう言いました。
「自分はYahoo!を使っているので、Googleは使えないと思っていました」と。

インターネットに接続すれば、Yahoo!もGoogleもどちらも使えるのに、「不思議」な発言です。
でも、実は、これはそのひとの経験からは「理屈」にかなっていたのだと思います。

1.1. レイヤーがそれぞれ別物だという話

「Yahoo!を使う」「Googleを使う」と言うとき、その指すものは、複数の異なるレイヤーが考えられます。

Yahoo!とGoogle検索 — レイヤーは別物 Yahoo!とGoogleは同じインターネット上の別々のサービス層として存在する 「Yahoo!を使っている」に含まれるもの Yahoo!を使う = 実は複数の層 ブラウザ:Yahoo!アプリ サイト:Yahoo! JAPAN 検索エンジン:Google※ アカウント:Yahoo! ID 回線:Yahoo! BB 独立 Googleを使う = 同じく複数の層 ブラウザ:Chrome サイト:Google検索 検索エンジン:Google アカウント:Googleアカウント (回線は関係なし) 組み合わせ 自由ChromeでYahoo! を開いてもいい両方のIDを 持ってもいい「どちらか一方」 ではない ※ Yahoo!検索の実態はGoogleエンジン(2010年12月〜)
レイヤーYahoo!側Google側
ブラウザアプリYahoo!アプリChrome
ポータルサイトYahoo! JAPANGoogle検索
検索エンジンYahoo!検索(実態はGoogle)Google検索
アカウントYahoo! JAPAN IDGoogleアカウント
プロバイダ(回線)Yahoo! BB関係なし

これらは独立していて、どちらか一方だけを選ばないといけない、というものではありません。
たとえば、Yahoo!アプリを使いながらGoogle検索を使ってもいいし、ChromeでYahoo!を開くことも、Yahoo! IDとGoogleアカウントを両方持つことも可能です。
必要に応じて、使い分ければよいものです。

ところが、ふだんはあまり、このレイヤーの違いを意識しないものです。
たとえば、東洋経済オンラインに掲載されたエッセイに、実家の父親が「ヤフー見るのに、なんでグーグルがいるんや」と言っていた、という発言が紹介されています1
パソコンで Yahoo!を見られるように Google Chrome をインストールしようとしたときに、出た疑問です。

つまり、「自分はYahoo!を使っている」という認識の中には、ブラウザも、メールも、検索も、アカウントも、混然一体になっているのです。

ちなみに、「Yahoo!検索の実態はGoogle」という点も、レイヤーの複雑さを増しています。
Yahoo! JAPANは2010年7月に発表し同年12月からGoogleの検索エンジンを採用しており、Yahoo!で検索していても技術的にはGoogleが動いています2

2. なぜそうなるのか:プロバイダ契約

この混同は単なる「無知」ではありません。
実は、体験の連続性を考えると、自然な推論だということがわかります。

なぜそうなるのか — プロバイダ契約の歴史 パソコン通信からインターネットへの移行が「Yahoo!に入会した」感覚を生んだ プロバイダ体験が作った「入会」感覚 1980〜90年代 パソコン通信 NIFTY-Serve PC-VAN 「NIFTYに入会」 移行 2000年代前半 インターネット Yahoo! BBに申込み メール設定 Yahoo!トップが出る →「Yahoo!に入会した」 継続 スマホ時代 スマートフォン Yahoo!アプリを開く ニュースを見る 「自分のスマホは  Yahoo!だ」 共通体験 契約する IDを作る 最初の画面 メールがある 検索がある 差が見えにくい のは自然 「無知」ではなく、体験からの合理的推論

家庭のインターネット利用は、2000年代前半に急拡大しました。
多くの人にとって「インターネット」を始めた体験は、インターネット・プロバイダへの加入でした3
たとえば、Yahoo! BBに申し込み、プロバイダメールを取得する4
メールとインターネットの初期設定をしてもらって、Yahoo! JAPANのトップページが出るようになる。
この一連の流れは、まるで「Yahoo!というオンライン空間に入会した」ように感じられます。

パソコン購入後の初期設定を依頼されるときに、メール設定とセットに、この「インターネットの最初の画面は、ヤフーにして」と言われることがあります。
どうも、ホームページの設定は、メール設定と同じように考えられているようにも感じます。

2.1. それ以前のパソコン通信

この感覚には、歴史的な文脈があります。

NIFTY-ServeやPC-VANといったパソコン通信サービスは、文字通り「会社ごとの閉じたネットワーク空間」でした5
ユーザーは電話回線でその会社のホストコンピュータに接続し、その中の掲示板、メール、ファイルライブラリを使いました。
つまり、「自分はNIFTYを使っている」という言い方は、NIFTYのネットワークに接続して、NIFTYのサービスを使う、という意味で正しいわけでひ。

インターネットへの移行は、この延長上にありました。
すると、「パソコン通信はNIFTYだった。インターネットはYahoo!にした」と考えるわけです。

たとえば、Yahoo! BBなどのインターネット・プロバイダは、インターネットそのものを提供しているわけではありません。
その役割は、インターネットへの接続口です。
しかし、感覚的には、その会社が提供するネット空間に入るという理解を、そのまま引き継いだわけです。

パソコン通信もインターネットも、「契約する」「IDを作る」「最初の画面がある」「メールがある」「検索がある」という共通の体験だったため、その差は使い始めた当時には見えにくかったのかもしれません。

3. 「インターネット」は実体か概念か

この話の根っこには、「インターネットとは何か」という問題があります。

インターネットは実体か概念か インターネットを「共通インフラ」と見るか「会員制空間」と見るかで理解が変わる インターネットの見え方:2つのモデル 共通インフラモデル (現在の一般的な理解) インターネット(共通) Yahoo! サービスのひとつ Google サービスのひとつ どちらも同じ回線で 使える 「Yahoo!もGoogleも  どちらも使える」 会員制空間モデル (パソコン通信から継承した感覚) Yahoo!空間 検索 メール ニュース (会員のもの) Google空間 検索 メール 地図 (別の会員) 「自分はYahoo!だから  Googleは使えない」

今では多くのひとが、「インターネットは、世界中をつないだ一つの共通した通信ネットワークで、その上にさまざまな企業がサービスを載せている」と理解しています。

でも、パソコン通信から連続して使ってきた人には、インターネットも「複数の会社がそれぞれ別々に提供するネットワークサービスの総称」に見えてもおかしくありません。
インターネットを開放的なネットワークではなく、「契約した入口から入る会員制の情報空間」と思い込んでいれば、「Yahoo!のインターネット」と「Googleのインターネット」が別物として存在しても不思議はないのです。

3.1. auでもd払いはできる?

これは、携帯キャリアに置き換えれば「ドコモだからauのサービスは使えない?」という感覚に近いです。

たしかに、基本的には同じ「プラットフォームのエコシステム」でサービスを揃えた方が何かとスムーズですが、これも実際にはauユーザーでも「d払い」に加入できます。
ここでも、レイヤーの違いは意識されにくいです。

3.2. スマホ時代のYahoo!アプリ

スマホでも、Yahoo!アプリをあえてブラウザとして使い続けている人がいます。

もちろん、好みや使いやすさもあり、それでも構いません。
ただ、Androidスマートフォンの標準ブラウザは、Google Chromeで、一部のウェブサイトは動作環境として指定しています。
それなら、ChromeでYahoo!をホームページに設定してもよいわけです。

ただ、その人にとってYahoo!アプリは「Yahoo!のページを表示するアプリ」ではなく、「自分のインターネット環境そのもの」で、なかなか腑に落ちないようです。

PC時代に「IEを開く、Yahoo!トップが出る、だからインターネットはYahoo!」という延長で、スマホで「Yahoo!アプリを開き、ニュースを見る。だから自分のスマホはYahoo!」になっています。
どちらも「Webは汎用ブラウザで任意のサイトを見るもの」という理解ではなく、「いつもの入口アプリから情報世界に入るもの」という理解です6

4. まとめ

「自分はYahoo!だからGoogleは使えない」は、技術的には正しくありません。

でも、その人の感覚では、「自分はYahoo!という入口を使っていて、Google側の環境は自分のものではない」という一貫性があります。

「Yahoo!」という言葉には、複数のレイヤーがあるというわかれば何でもない話ですが、体験から積み上げていると、一体のものに見えてしまいます。

この差に気づくと、「どんな体験がその考え方を作ったのか」と考えることができます。

(補足)

  1. 「ヤフー見るのに、なんでグーグルがいるんや! 実家の父からの素朴すぎる質問に悶絶!」東洋経済オンライン、2015年3月。離れて暮らす父親のパソコンをリモートサポートする中で、Yahoo!を見るためのブラウザとしてGoogle Chromeが必要だという関係が伝わらなかったエピソードが紹介されている。 – ヤフー見るのに、なんでグーグルがいるんや!
  2. Yahoo! JAPANは2010年7月27日、Googleの検索エンジンおよび検索連動型広告配信システムを採用すると発表。同年12月1日よりPC版の検索結果がGoogleとほぼ同一になった。なお2001年から2004年にもGoogleエンジンを採用しており、今回は再提携にあたる。 – Yahoo! JAPANがGoogleの検索エンジンと検索連動型広告配信システムを採用
  3. 総務省の通信利用動向調査によると、2001年末時点のインターネット利用者数は5,593万人、人口普及率44.0%、世帯普及率60.5%に達していた。この時期が多くの家庭にとってインターネット導入の最初のタイミングにあたる。 – インターネット白書2000・通信利用動向調査
  4. Yahoo! BBは2001年6月に試験サービス、同年9月に商用サービスを開始。2002年9月に加入者100万人、2003年2月に200万人を突破。低価格戦略と「パラソル部隊」と呼ばれた街頭でのモデム無料配布が普及を加速させた。 – ブロードバンド総合サービス「Yahoo! BB」の会員数が200万人を突破
  5. NIFTY-Serveは1987年4月にサービスを開始し、ピーク時には約300万人の会員を持つ日本最大のパソコン通信サービスだった。電話回線でホストコンピュータに接続し、フォーラムと呼ばれる電子会議室を中心に情報交換が行われた。インターネットの普及により利用者が減少し、2006年3月31日にサービスを終了した。 – ニフティが19年の歴史を持つパソコン通信を終了
  6. Yahoo!アプリはポータルアプリとして検索、ニュース、天気、メール、ショッピングなどをひとまとめに提供している。スマホ上ではURLバーやホームページ設定といったブラウザ的な概念が見えにくいため、アプリそのものがインターネットの入口として機能しやすい。
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