- Windowsの印刷処理は、アプリケーションからGDI、スプーラー、プリンタードライバーを経てプリンターへ至る仕組みです。
- Windows 95からWindows 11まで基本的な流れは維持されていますが、ドライバーモデルの簡素化やクラウド対応が進化しました。
- 最新のシステムではセキュリティが強化され、XPSやPDFなどの新たな形式も標準で対応しています。
1. 「印刷」ボタンを押してから

皆さんは、コンピュータで「印刷」ボタンを押してから実際に紙が出てくるまでの間に何が起きているか考えたことがありますか?
今回はその一連の流れを見ていきましょう。
Windows 95時代のプリント処理の仕組みを現在のWindows 11と比較すると、基本的なアーキテクチャは似ていますが、いくつかの重要な違いがあります。
特にネットワーク対応とセキュリティ強化が顕著です。
シンプルな印刷という機能の裏側で、オペレーティングシステムは時代とともに絶え間なく進化を続けているのです。

Windows 11でも、アプリケーション → GDI → スプーラー → プリンタードライバー → ポートドライバー → プリンターという基本的な流れは維持されています。
2. アプリケーションからの出発点
まずユーザーがワードプロセッサなどのアプリケーションで「印刷」ボタンをクリックします。
すると、アプリケーションは「Windows GDI」というシステムに印刷の指示を出します。

GDIとは、グラフィックスの描画を担当するWindowsの基本部品です。
アプリケーションは具体的に「印刷を始めます」「ここに文字を書きます」「ここに線を引きます」といった命令をGDIに次々と送ります。
このとき、CreateDCやStartDocなどの専門的な関数が使われます。
2-1. GDIによる変換作業
GDIはアプリケーションから受け取った命令を、プリンター用のデータに変換します。
ただし、この時点ではまだ特定のプリンター向けの言語には変換されません。
その代わり、「EMF(拡張メタファイル)」という形式でデータを保存します。
EMFとは、描画命令を記録しておくためのWindowsの形式です。
このEMFファイルは一時的にコンピュータ内の「スプール」と呼ばれる場所(Windows\spool\printersフォルダ)に保存されます。
2-2. EMF Spooling vs RAW Spooling
- EMF Spooling:
アプリケーションからの解放が早い(ユーザーにとって高速) - RAW Spooling:
プリンター言語への変換を先に行うため、実際の印刷開始が早い
2-3. スプーラーによる管理
次に「スプーラー」と呼ばれるプログラムが登場します。
スプーラーは印刷待ちの仕事を管理する係で、「この文書を先に印刷する」「あの大きな文書は後で印刷する」といった順番決めを行います。
スプーラーは複数の印刷ジョブを効率よく処理するだけでなく、バックグラウンドでの印刷を可能にします。
これにより、ユーザーは印刷中でも他の作業を続けられるのです。

Windows 95では「spoolsv.exe」というプログラムがこの役割を担っていました。
3. プリンタードライバーの変換作業
ここからが本格的な変換作業の始まりです。
プリンタードライバーは、EMFファイルに記録された命令を、接続されているプリンターが理解できる言語に翻訳します。
プリンターの種類によって、PCL(プリンター・コマンド・ランゲージ)やPostScriptなど、異なる「方言」があります。
プリンタードライバーは主に以下の部品から構成されています:
- Unidrv/Pscript:
マイクロソフト提供の基本エンジンで、多くのプリンターに共通する機能を担当します。 - ミニドライバー:
特定のプリンターモデル固有の情報や設定を提供します。 - レンダリングDLL:
EMFからプリンター言語への具体的な変換を行います。

また、この段階では印刷する色の調整や、写真などの階調表現の処理も行われます。
3-1. ポートドライバーによる通信
変換されたデータは、次に「ポートドライバー」へと渡されます。
ポートドライバーは、コンピュータとプリンターをつなぐ物理的な通路(ポート)を管理します。
Windows 95の時代は主に以下の接続方法が使われていました:
- パラレルポート:
LPT1などと呼ばれる、当時最も一般的な接続方法でした。IEEE 1284という規格に基づいています。 - シリアルポート:
COM1などと呼ばれる接続方法で、RS-232C規格を使用していました。 - ネットワークポート:
オフィスなどでプリンターを共有する場合に使われ、NetBIOSなどのプロトコルで通信していました。
3-2. プリンターでの最終処理
最後に、プリンターがデータを受け取り、内部処理を行った後、実際にインクやトナーを使って紙に印刷します。
プリンター内部では受け取ったコマンドを解釈し、ヘッドの動きやインクの噴射量などを制御して印刷を実行します。
このように、Windows 95での印刷処理は、アプリケーションからプリンターまで、複数の専門部品が連携して動作する複雑なシステムでした。
コンピュータが発展した現在でも、基本的な仕組みは同じですが、処理速度や互換性は格段に向上しています。
4. モダンなプリンティングシステム
Windows 11では「v4プリントアーキテクチャ」と呼ばれる新しい仕組みが導入されています。
これはWindows 8から始まった変革で、従来のモデルに比べて以下の違いがあります:
- ドライバーモデルの簡素化:
Windows 95時代は各プリンターメーカーが複雑なドライバーを提供していましたが、現在はMicrosoftが基本ドライバーを提供し、メーカーは差分情報のみを追加するモデルになっています。 - クラウド印刷対応:
Windows 11ではクラウドプリントなど、インターネット経由で離れた場所のプリンターへの印刷が標準でサポートされています。 - ユニバーサルプリントドライバー:
多くのプリンターがMicrosoftのユニバーサルプリントドライバーで動作するようになり、互換性が向上しました。
4-1. XPSとPDFの活用
Windows 95時代はGDIとEMFが中心でしたが、Windows 11では別の印刷データ形式も使われます:
- XPS(XML Paper Specification):
MicrosoftがPDFに対抗して開発したドキュメント形式が内部的に使われています。
Windows Vista以降に導入され、EMFに代わる役割を果たしています。 - Microsoft Print to PDF:
Windows 10以降で標準搭載されたPDF出力機能の内部処理
GDI命令を直接PDFオブジェクトに変換
フォント埋め込みとベクターグラフィックスの保持
ICC色プロファイル対応によるカラーマネジメント
Windows 11では、バックグラウンドでのプリントサービスがさらに最適化されています。
- 印刷キュー管理の向上:
より効率的な優先順位付けとリソース配分 - 障害復旧メカニズム:
印刷ジョブが失敗した場合の自動リカバリー機能 - メモリ使用量の最適化:
大規模な印刷ジョブでもシステムパフォーマンスへの影響を最小化


