BeRealでの情報漏洩から見るSNSリテラシ(TikTokやInstagramでの炎上との違い)

  • BeRealやInstagramストーリーズは「消える・仲間内だけ」という設計が警戒心を下げるが、スクリーンショットで情報は簡単に外部へ出る。
  • 2026年春、銀行・学校・テレビ局で相次いだ職場情報漏洩は、炎上を狙った行為ではなく、日常共有の延長で起きた偶発的な事故だった。
  • 若者はモラトリアム期に身につけた「友達と共有する習慣」を社会人になっても続けるため、守秘義務のある職場環境と衝突しやすい。
  • SNSリテラシーとは個人情報を出さない知識ではなく、「この投稿が私的な文脈を外れたときどんな意味を持つか」を判断する技術だ。
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1. BeRealでの情報漏洩事件

2026年春、西日本シティ銀行の職員が営業店の執務室内をBeRealで撮影し、ホワイトボードに書かれた顧客の氏名や住所がXへ拡散しました1
仙台市立小学校の教員は、校務用システムの画面をBeRealに投稿し、学校名と同僚の氏名が第三者にスクリーンショットされました2
日本テレビ系「ZIP!」のスタッフは、シフト表と入館証をInstagramストーリーズに載せました3

炎上目的でも、バズ狙いでもありません。
「友達に見せるだけのつもりだった」人たちが、情報漏洩の当事者になっています。

1.1. バイトテロとの決定的な違い

2010年代後半に多発したバイトテロの典型は、飲食店のアルバイトが冷蔵庫に入って撮影した動画をTwitter(現X)に投稿する、というパターンでした。
「見てもらいたい」「面白いと思われたい」という動機が先にあり、その手段として公開SNSを使いました。
能動的な逸脱であり、炎上は行為の自然な帰結でした4

BeRealの職場漏洩は構造が違います。
まず「日常を友達に共有する」という、特に悪意のない行為があります。
投稿の動機はバズりたいのではなく、仲間とつながること。
その「日常」の背景に、たまたま職場のPC画面や顧客リストが写り込んでいます。

逸脱が目的ではなく、逸脱が副産物として生まれる。
これが最も止めにくい漏洩の形です。

2. なぜエフェメラル・クローズドなSNSが人気になったのか

SNSの人気は、前の時代への反動として動いてきました。

Facebookは実名・公開が前提で、知人との近況共有や情報発信の場として2000年代後半に広がりました。
しかしやがて、「いつでも誰かに見られている」緊張感と、自分の発言が記録・拡散されることへの疲労感が生まれます。
Twitterは匿名で短く書けることが受けましたが、リツイートによる拡散が炎上リスクと表裏一体でした5

Instagramは写真共有に特化し、ビジュアルの美しさを軸にした「映え」文化を生みました。
しかしそれは同時に、常に整った写真を用意しなければならないプレッシャーを生みます。
2011年登場のSnapchatは、送ったメッセージが数秒で消えるという設計でこの疲れへの解答を出しました6
消えるから気軽に投稿できる、という感覚です。

TikTokはアルゴリズムによる動画レコメンドで急成長しましたが、フォロワーがいない見知らぬ相手にも届く設計は、ある種のプレッシャーと隣り合わせです。

こうした流れの先に、BeRealが登場しました。
加工なし、1日1回、友達だけ。
Z世代を対象とした調査では、BeRealが受け入れられている理由として「キラキラした投稿を作るSNS疲れからの解放」が42%でトップとなっています7

別の調査では、若者のSNS投稿頻度は減少傾向にある一方で、友人限定のストーリーズ投稿やグループチャットの滞在時間は増えているという結果も出ています。
つまり「表のSNS離れ」の裏で「クローズドなSNSへの定着」が進んでいます8

言い換えると、SNSは「公開して広く届ける」から「限られた相手とリアルに共有する」方向へ移ってきています。
エフェメラルとクローズドは、その移行の最前線にあります。

2.1. エフェメラルとクローズド——「消える」「仲間内だけ」が警戒心を下げる

BeRealやInstagramストーリーズのリスクを理解するには、エフェメラルとクローズドという2つの性質を押さえておく必要があります。

エフェメラル(ephemeral)とは、投稿が一定時間で消えるように見える設計のことです。
Instagramストーリーズは24時間で表示が消え、BeRealも基本的には翌日の通知が来ると前日の投稿が見えなくなります。
この「消える」という体験が、投稿のハードルを下げます。
記録として残るという緊張感が薄れるからです。

クローズド(closed)とは、閲覧できる相手をあらかじめ限定する設計です。
Instagramの「親しい友達」機能は特定のフォロワーにだけストーリーズを届けます。
BeRealも基本的には承認した友達だけに投稿が届く仕組みで、公開アカウントとは異なります。
「仲間内だけ」という感覚が、投稿内容への慎重さをさらに下げます。

BeRealは、通知が届いてから2分以内に前後カメラで撮影して投稿するSNSです9
投稿できる回数は1日1回、加工やフィルターは使えません。
「ありのまま」「今この瞬間」という即時性の設計が、エフェメラルとクローズドの両方を強調しています。

しかし、デジタル情報は表示された時点で複製可能になります。
スクリーンショット、画面録画、別端末での撮影のいずれも防ぐ手段はありません。
「消える」のはサービス上の表示であって、情報そのものではない。
「閲覧者を限定した配信」であって、「流通を制御した私的通信」ではないのです。

投稿した瞬間から、保存・再共有の可能性は閲覧者の数だけ存在します。
エフェメラルとクローズドの組み合わせは、利用者の警戒心を下げながら、実際のリスクは下げていません。

2.2. 炎上した「陽気な人」と漏洩した「ふつうの人」

バイトテロや迷惑動画の文脈では、「ふざける人が炎上する」という理解が浸透しています。
TikTokで過激な動画を投稿して注目を集めようとした人が燃える、というイメージです。

BeRealの職場漏洩は別のラインで起きます。
問題を起こしているのは、特別に軽率な人でも、承認欲求が強い人でもありません。
ふつうに友人関係の中でSNSを使ってきた人が、職場という新しい文脈に同じ感覚を持ち込んで、事故を起こします。

エフェメラル・クローズドな設計は、警戒心を公開SNSよりも確実に下げます。
TikTokで仕事中の動画を公開投稿しようとすれば、多くの人は一瞬立ち止まるでしょう。
BeRealの「24時間限定、友達だけ」という形式では、その一瞬のブレーキが働きにくいのです。

3. 世代ごとに違うSNS、同じ構造のリスク

若者は世代ごとに、そのときの主流SNSを友人関係の中で受容してきました。
ミクシィ、Twitter、Instagram、TikTok、BeReal。
いずれも、友達がいるからそこへ行く、という経路で広がっています。

学生時代には、日常を見せ合うことが関係性の確認として機能します。
「今どこにいる」「誰といる」「何してる」を共有することに、特別な意味はありませんでした。
社会人になると、同じ行為が守秘義務、個人情報保護、社内規程、顧客との信用に直結する環境に置かれます。

行為は同じで、環境が変わる。
リスクの意味が変わります。

その切り替えを意識的に行わないと、感覚が学生時代のままで止まります。
2026年春に相次いだ漏洩事例——日本テレビ系スタッフ、三菱電機住環境システムズ、川崎市新規採用職員、西日本シティ銀行——に共通するのは、入社・配属直後というタイミングです10

3.1. モラトリアム期のSNSが、社会人になっても続く理由

SNSをやめればリスクはない、というのは正論です。
しかし実効性がありません。
若者にとってSNSは娯楽ではなく、友達付き合いのインフラだからです。
使わないことは、そのコミュニティから距離を置くことを意味します。

学生時代、特に高校・大学の時期は、発達心理学でいうモラトリアム期にあたります。
モラトリアムとは、社会的な責任が猶予されている期間のことで、この時期は同世代の仲間関係が生活の中心になります。
価値観も情報も共有されやすく、同調圧力も強い。
SNSでの「共有」は、その関係性を維持するための行為として自然に機能します。

この時期のSNS利用には、もう一つ重要な特徴があります。
仲間同士でシェアされる情報の多くが、「互いに知っていても困らない情報」で成り立っているという点です。
今日どこにいる、誰と飯を食った、どんな音楽を聴いている。
それらは個人の日常であり、同じ世界を生きる友人同士では、漏れても痛みがない情報です。

社会人になると、この前提が崩れます。
付き合う世界が広がり、立場も責任も違う人たちと関わるようになります。
職場には顧客情報があり、取引先との信頼関係があり、守秘義務があります。
ここで「共有」してしまうと、本人が意図しない情報——伝えるべきでない情報——が一緒に出てしまいます。

しかしSNSの使い方は変わりません。
「友達だけに見せる」という感覚のまま、今度は職場の景色を撮ります。
モラトリアム期に身についた「共有する習慣」が、社会人になっても続いているのです。

ライフステージが変わるとき、コミュニケーションの形も更新する必要があります。
何をシェアしてよいかの基準が、学生時代とは変わっているからです。
それは「SNSをやめる」ということではなく、「誰に向けて、何を、どの範囲で共有するか」という判断の精度を上げることです。

4. SNSリテラシーとは何か

「個人情報を出さない」「写真の背景に気をつける」「位置情報をオフにする」。
こうした知識ベースのリテラシー教育は、知識として間違っていません。
BeRealの職場漏洩は、それ以前の問題として起きています。

投稿した人の多くは、背景に顧客名が写っていることに気づいていませんでした。
あるいは、気づいていても「友達だけだから大丈夫」と思いました。
知識の問題ではなく、判断の基準の問題です。

SNSリテラシーを知識としてではなく、判断技術として捉えると、問いの形が変わります。
「この情報を出していいか」ではなく、「この投稿は、今の私的な文脈を外れたとき、どんな意味を持つか」という問いになります。

閲覧者が5人でも、そのうち1人がスクリーンショットを保存すれば、投稿者の管理は失われます。
文脈が変われば——数年後に、別の立場の人に、別の状況で見られれば——同じ画像がまったく違う重大性を持って戻ってきます。

SNSは「私的に見える公的空間」です。
そこでは、「外部に出ても壊れない程度の私的らしさ」を維持する判断が常に求められています。
その難しさに対して、BeRealのような設計は「今すぐ、ありのまま、仲間だけに」と誘導します。
リテラシーの負荷と設計の誘導が逆方向を向いているため、個人の注意喚起だけでは限界があり、組織側の明確なルール設定と、職場での撮影・投稿に関する具体的な教育が必要になります11

BeRealで情報漏洩を起こした人の多くは、炎上させたかったわけではありません。
ただ、友達に今日の仕事を見せたかっただけです。
その「ただそれだけ」が、エフェメラル・クローズドなSNSの上では、最も止めにくい漏洩の形になっています。

(補足)

  1. 2026年4月29日夜に投稿がXで急速に拡散し、翌30日には1,042万ビュー・1.4万リポストを超える炎上状態となりました。映り込んでいた情報は顧客7名の氏名のほか、業績目標・貸出金・個人ローンの数値目標・デスク上の書類・PCの画面など多岐にわたりました。 – 西日本シティ銀行、職員が「BeReal」で支店内を撮影—顧客7名の氏名・業績目標・PC画面がX上で拡散し個人情報漏洩
  2. 仙台市の公式発表によると、教員は自宅で翌日の会議準備中にBeRealの通知が届き、「深く考えずに投稿した」と説明しています。投稿はXに転載されて21日午後7時時点で300万回以上閲覧されました。 – 市立小学校教員によるSNSへの画像投稿について
  3. 投稿したのは制作協力会社の新入社員とされ、4月27日には日本テレビホールディングスの福田博之社長が定例会見で謝罪し、「我々の対応が十分ではなかった」と情報管理体制の不備を認めました。 – 日テレ社長、「ZIP!」新人スタッフのSNS情報漏洩を謝罪
  4. 2019年1月から2月にかけて、すき家・くら寿司・バーミヤン・大戸屋・セブン-イレブンなど外食・コンビニ業態で不適切動画の投稿が連続して発生しました。すき家の事例はInstagramストーリーズへの投稿がTwitterに転載されて拡散したもので、投稿から炎上まで数日かかっています。 – バイトテロはどのように発覚して拡散するのか?
  5. SNS史の変遷として、Facebookは2004年にハーバード大学の学生向けに開始し2006年に一般開放、Twitterは2006年登場。いずれも公開型SNSとして拡散力を持つ一方、記録の残りやすさや炎上リスクが課題となりました。 – SNSの歴史とは?SNSの誕生から未来までをたどる
  6. Instagramのストーリーズ機能は、Snapchatの「消える投稿」の仕組みを取り入れる形で2016年に導入されました。 – SNSの歴史とは?SNSの誕生から未来までをたどる
  7. Z世代創造性研究所(Z-SOZOKEN)が2025年8〜9月に実施した調査(18〜24歳対象)より。「他人と自分を比較しなくて済む精神的な楽しさ」が25%で続き、「盛る」SNSへのカウンターとして支持されていることが示されています。 – BeRealの魅力は「比較からの解放」。Z世代の50%がリアルな友情の深化を実感
  8. 東京大学・電通総研の共同調査(2024年)および米Pew Research(2024年)によると、公開型SNS(X、Facebook)から半公開・非公開型(DM、Discord、LINE、Snapchat)への移行が共通して進んでいます。 – 「若者のSNS離れ」は幻想?”発信離れ”と”非公開化”でネット行動が再編
  9. BeRealは2020年にフランスで設立されたSNSで、世界で月間約4,000万人のアクティブユーザーが利用しています。2分以内に投稿できなかった場合、投稿に「○時間遅れ」と表示される仕様になっており、撮り直した回数も相手から確認できます。 – Z世代に人気の「BeReal.(ビーリアル)」って何?その特徴や使い方を解説
  10. 川崎市の事例では、新規採用職員がLINEのオープンチャット(不特定多数が閲覧できる)に研修用資料の写真を投稿しました。資料には外部講師の氏名や勤務先が写り込んでいました。福田紀彦市長は「こんなことまで注意喚起をしなくてはならないのか。驚きを隠せない」と苦言を呈しています。 – 川崎市の新人職員がSNSで研修資料拡散 市長苦言「認識が非常に甘い」
  11. 西日本シティ銀行の続報では、漏洩範囲が当初公表の個人7名から個人8名(うち1名は住所も含む)・法人19社の名称に拡大したことが判明しました。同行は再発防止策として、私有スマートフォンの職場への持ち込みを全面禁止に変更しています。 – 西日本シティ銀行・BeReal投稿による顧客の個人情報漏洩で頭取が謝罪
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