- Intelは、CPUの欠陥問題や経営不振に直面しています。
- 最新のCPUに深刻な問題が発見され、ユーザーや企業に影響を与えています。
- 同時に、AIなどの新技術トレンドへの対応遅れにより業績が低迷し、大規模な人員削減を実施しています。
「CPUと言えば Intel」だったのも今は陰りが出てきましたね。
1. Intelの最新CPUに見つかった欠陥
IntelのCPUに深刻な問題が発生しています。
この問題は、第13世代と第14世代のIntel Coreデスクトップ用プロセッサに影響を与えています。
問題の原因は、CPUのマイクロコード(プロセッサ内で動作するファームウェア)の欠陥にあります。
この欠陥により、チップが必要以上の電力を要求し、安全な動作範囲を超えてしまうのです。
1-1. ハイブリッドアーキテクチャ
第13世代(Raptor Lake)と第14世代(Meteor Lake)は、大小のコアを組み合わせるハイブリッドアーキテクチャを採用しました。
これは高性能コア(P-core)と高効率コア(E-core)を組み合わせて、性能と電力効率のバランスを取る狙いがあります。
特に第14世代では、内蔵GPUの性能向上やAIアクセラレータ内蔵で、グラフィックス性能やAI処理能力の向上が期待されていました。
しかし、ハイエンドモデルの消費電力が高くなる傾向があり、電力効率面での課題が指摘されていました。
処理能力と消費電力のバランスをどの辺りにするか、というのは大きな経営判断なんだろうね。
Intelはやっぱり「最高性能」を重視しているイメージ。
1-2. クラッシュしたCPUは劣化してしまう
過剰な電力の問題はかなり深刻で、PCが不安定になるだけでなく、一度クラッシュすると、プロセッサは「取り返しのつかない劣化」を受けてしまうのです。
怪我をしたサラブレッドみたいな感じなんだね……💧
Intelは8月中旬までに修正パッチを用意する予定ですが、既に損傷を受けたプロセッサを修復することはできません。
交換するしかないのです。
ちなみに、この問題の影響を受けているかどうかを判断するのも微妙で難しい状況です。
Intelは現時点で、ユーザーが自分のプロセッサが影響を受けているかどうかを簡単に確認する方法を提供していません。
つまり、ユーザーや企業にとっては、高額な修理や交換が必要になる可能性があります。
また、システムの不安定性はデータ損失やビジネスの中断につながる可能性もあります。
今のところ、Intelはこの問題に対してリコールを行う予定はないと述べており、これはユーザーや企業にとってさらなる懸念事項となっています。
1-3. 2024年第2四半期の決算で赤字に
Intelは現在、深刻な経営難にも直面しています。
かつて半導体業界で圧倒的な地位を誇っていたIntelですが、現在は厳しい経営状況に直面しています。
AIをはじめとする新技術への対応の遅れが、その主な原因となっているようです。
2024年第2四半期の決算では、売上高が前年同期比で1%減少し(約1兆9000億円)、約2400億円の純損失を計上したことです。
業績低迷の主な理由として、Intelが人工知能(AI)などの新しい技術トレンドから十分な恩恵を受けられていないことが挙げられます。
パット・ゲルシンガーCEOは、主要な製品やプロセス技術で進展があったにもかかわらず、財務実績が期待に届かなかったと述べています。
状況を改善するため、Intelは大規模なコスト削減計画を実施しています。
2025年までに約1兆5000億円のコスト削減を目指しており、その一環として約1万5000人の従業員を削減する予定です。
これは全従業員の15%以上に相当します。
また、Intelは研究開発費やマーケティング支出、設備投資も大幅に削減する方針です。
2026年まで毎年数千億円の研究開発費とマーケティング支出を削減し、2024年の設備投資は20%以上削減する予定です。
Intelの経営陣は、これらの措置によって会社の利益を改善し、財務状況を強化できると期待しています。
しかし、従業員の大規模な削減や投資の縮小は、長期的には技術革新や競争力に影響を与える可能性があります。
1-4. 最近のIntelを取り巻く外部環境
Intelの不振には複数の要因が絡み合っています。
Intelの独占的な立場が失われてきた歴史的経緯を、簡単にまとめます。
- PCとサーバー市場での優位性
(1990年代〜2000年代初頭):
インテルは長年、PCとサーバー市場でx86アーキテクチャのCPUを独占的に供給していました。
「Wintel」(Windows + Intel)の時代として知られています。 - AMDの台頭
(2000年代中頃):
AMDが競争力のあるCPUを開発し始め、特に2003年のOpteron発表以降、サーバー市場でインテルのシェアを奪い始めました。 - モバイル革命への対応の遅れ
(2000年代後半〜2010年代初頭):
スマートフォンやタブレットの普及により、低消費電力のARMベースのプロセッサが台頭しました。
インテルはこの市場での対応が遅れ、モバイルデバイス向けチップ市場でシェアを獲得できませんでした。 - データセンター市場での競争激化(2010年代後半〜現在):
AMDのEPYCプロセッサやAmazon、Google等の大手クラウド事業者による自社設計チップの採用により、インテルのデータセンター市場でのシェアが低下しています。 - 製造プロセス技術の遅れ
(2010年代後半〜現在):
TSMCなどの専業ファウンドリが最先端プロセスの開発で先行し、インテルの製造技術の優位性が失われつつあります。 - AI・機械学習市場での出遅れ
(2010年代後半〜現在):
NVIDIAのGPUがAI・機械学習分野で主流となり、インテルはこの成長市場での存在感を示せていません。 - アップルの離反
(2020年):
長年のパートナーだったアップルが、Macに搭載するCPUを自社設計のARMベースチップに切り替えることを発表しました。
2. 垂直統合型からファブレス
まず、半導体業界の構造変化が挙げられます。
Intelは長年、設計から製造まで一貫して行う垂直統合モデルで成功を収めてきました。
しかし、このやり方は市場の急速な変化に対応しにくく、巨額の設備投資が必要という弱点がありました。
一方、NVIDIAやAMDなどのファブレス企業は、設計に特化し製造をTSMCなどに委託することで、柔軟性と効率性を獲得しました。
特にTSMCは最先端の製造プロセス開発で優位に立ち、Intelは技術面でも遅れを取るようになりました。
Intelの垂直統合モデルへのこだわりも、問題の一因と言えるでしょう。
生産のコントロールを手放したくないという思いが、柔軟な対応を妨げている可能性があります。
2-1. AMDのRyzen
2017年、AMDはRyzenシリーズのCPUを発表しました。
高性能と競争力のある価格設定により、デスクトップPC市場でIntelのシェアを奪い始めました。
2-2. 自社設計チップ
さらに、主要顧客の離反も大きな打撃となりました。
AppleがMacにIntel製CPUの採用を止め、自社設計のチップに移行したことはその典型例です。
また、AmazonやGoogleなども自社設計チップの開発を進めています。
これが可能になったのは、半導体業界では、設計と製造を分離するモデルが一般的になったからです。
特定のチップメーカーに依存せず、安定した生産体制を築けるようになりました。
また、チップの設計技術や製造プロセスの進歩により、専門メーカーでなくても高性能なチップを設計できるようになりました。
スマートフォンやタブレットが普及したことで、省電力で高性能なチップの需要が増えました。
また、ARMという新しい技術の登場により、従来のx86に頼らない選択肢ができました。
自社でチップを設計するメリットは、他社とは違う特徴を出せること。
また、ソフトウェアとの相性が良くなり、製品全体の性能が上がります。
AIや機械学習の発展に伴い、これらの処理に適したチップの需要も高まりました。
チップの設計を自社で行うことで、重要な技術や知識を社内に蓄えられます。
これは新しい技術に素早く対応して製品を開発するために重要です。
長い目で見ると、自社でチップを作る方が安くなる可能性もあります。
3. CPUからGPU、NPUに
次に、計算パラダイムの変化があります。
従来のCPU中心の計算から、GPU や AI 加速器が重要性を増しています。
NVIDIAはGPUの技術を活かしてAI市場で圧倒的な強さを見せています。
一方、Intelは GPU 開発で長年苦戦し、AI市場での存在感も薄くなっています。
3-1. NVIDIAのGPU
NVIDIAは1990年代からGPU(Graphics Processing Unit)の開発に特化し、PCゲーム市場で強い地位を築いていました。
2006年頃から、NVIDIAはCUDA(Compute Unified Device Architecture)を開発し、GPUを汎用計算に活用する道を開きました。
2010年代に入り、深層学習やAIの発展に伴い、GPUの並列処算能力が注目されるようになりました。
NVIDIAのGPUはAI研究や機械学習のデファクトスタンダードとなりました。
データセンターやクラウドコンピューティングの成長に伴い、NVIDIAのGPUはAIや高性能コンピューティング(HPC)分野で不可欠な存在となりました。
3-2. データセンターと「コスパ」
クラウドコンピューティングの成長により、大規模なデータセンターでは電力効率と性能の両立が重要になりました。
データセンター市場でも、AMDがTSMC製造のチップでIntelのシェアを奪っています。
サーバー向けCPU市場でIntelの優位性が低下し、利益率の高かったこの分野での収益が落ち込んでいます。
AMDがデータセンター市場で優位に立った大きな要因の一つは電力効率です。
さらに、全体的な性能向上、価格競争力なども、AMDの成功に貢献しています。
これらの要因が重なり、Intelは技術革新のスピード、製造プロセスの進化、新市場への適応で競合に後れを取ることになりました。
生成AIだけが原因ではありませんが、AI市場の急成長に乗り遅れたことが、Intelの収益力低下を加速させたと言えるでしょう。