- 「譲渡」や「〜認定整備品」などという名目で、古いパソコンにWindows 11を入れたものが「再生品」として販売されていることがあります。
- しかし、Windows 11には従来より厳しいシステム要件があり、特にTPM 2.0チップの搭載が必須となっています。
- 古いパソコンに最新のWindowsを導入しただけの再生品は、性能不足やセキュリティリスクがあります。
中古パソコンは不適切な販売もリアル・ネット上で少なくないため、初心者はまずは信頼できる実店舗で新品を購入するのがオススメです。
予算は最低でも 8万円ぐらい、できれば 12万円ぐらいを考えたほうがよいです。
それ以下のものは、何かしら注意点があります。
1. 「再生品」「整備品」などの安いパソコンって大丈夫?
今使っているパソコンがサポート切れになっていて、そろそろ買い替えを考えています。
たまに「官公庁や企業で使われていたパソコンの再整備品」などの宣伝を見かけます。
Windows 11のパソコンが 3万円ほどで販売されているものもあり、家電量販店で新品を買うより断然お得なようです。
購入時に気をつけるべきポイントはありますか?
安価なパソコンの中には、古いハードウェアに最新のシステムを導入しただけで販売されているケースもあります。
購入後に「サポート終了」や「非対応」、性能不足で後悔しないためにも、必ずパソコンの性能(スペック)の意味を理解しておきましょう。
初心者には新品の現行モデルの購入を推奨します。
多少高価でも、長期的には安全で快適な利用が可能です。
もちろん安いパソコンでも、回覧板や年賀状を印刷するだけなど用途を限れば活用できます。
しかし、「ふつう」にインターネットを閲覧するぐらいできるだろうと思って買ったのに、結局 別のパソコンを買い直さないといけなくなった、というケースも多いです。
1-1. 買う理由は「安い」から?「環境保護」のため?
あんまり「たいしたこと」にパソコンを使わないから、安いものでいいんだけど……。
「再生品」や「リユース」「リファービッシュ」などというのは、単純に言えば「中古品」のことです。
パソコンの法定耐用年数は 4年1ですが、それを過ぎてすぐに廃棄するのは「もったいない」です。
メンテナンスして使った方が地球環境によさそうです。
ただし、価格だけ見て「格安パソコン」とも思って購入するのは要注意。
「中古品」の状態はさまざまで、ある程度 知識がないと良し悪しがわかりません。
「高度な処理ができない」とか「動きが遅い」だけでなく、最低限のセキュリティがないものもあるからです。
また、販売業者もさまざまです。
良心的な業者がある一方、利益重視の業者もあるからです。
これは、パソコンに限らず、中古車とか古着とかでも一緒だよね。
1-2. 「安いパソコン」ほど「上級者向け」
中古・再生パソコン購入時の「後悔」には、2つのポイントがあります。
- 思った以上に不便だった
- 十分なセキュリティがなかった
パソコンは、「ハードウェア」と「ソフトウェア」で構成されています。
「最新の Windows 11搭載!」と書かれていても、わかるのはソフトウェアのことだけ。
機械そのもの(ハードウェア)が古いと処理に時間がかかったり、期待した用途に使えなかったりする可能性があります。
「パソコンなら、これぐらいはできて当たり前」という「常識」は、中古品には通用しないのです。
2. Windows11のシステム要件が上がった
Windows 11には、動作に必要な基準(システム要件)があります。
パソコンの主要な性能を決めるのは、「CPU」と「メモリ」です。
Windows 11では、要求水準が特に大幅に上がりました。
Windows 10 | Windows 11 | |
---|---|---|
CPU | 1GHz以上 | 1GHz以上かつ2コア以上 (第8世代以降のIntelプロセッサ、またはAMD Zen 2以降が必要) |
メモリ(RAM) | 1GB(32bit版) 2GB(64bit版) | 4GB |
ストレージ | 32GB | 64GB |
2-1. CPUは世代・年式が大事
多くの「再生品」のメンテナンスは、古いWindowsを消して、新しいWindowsをセットアップし直しているものです。
比較的かんたんなメモリの増設やSSD換装などの部品交換をしているものもありますが、基本性能に関わるCPUなどはそのままです。
かんたんに言うと、塗装や内装はきれいにしてもエンジンは古いままです。
CPUの性能は、そのままスペック表には書かれていません。
一般には、「グレード」と「世代番号」を大まかな目安にします2。
- グレード:
Core i7, Core i5, Core i3, Celeronなどの違い。
新品のパソコンでは重要。 - 世代番号(年式):
中古パソコンでは重要
ただし、販売時に表記されていないこともある。
中古パソコンの場合は、世代番号が大事。
特に、Windows 11では「第8世代以降のIntelプロセッサ(≒ 2017年以降)」が要件に加わっています。
かんたんに言うと、「Intel Core i5」など同じグレードでも、世代が古いと性能は全く異なります。
2-2. 古いパソコンが遅い理由(ムーアの法則、ウィルトの法則)
基本性能が古いままだと、新しいWindowsは快適には動作しません。
「ギリギリ動く」という状態に近いです。
これは、パソコンの性能は年々 向上し、扱う情報も複雑化しているからです。
パソコン性能が向上するスピード感を言い表したものに、「ムーアの法則(Moore’s Law)」がよく知られています。
これは、「半導体集積回路の集積率が18~24ヶ月で2倍になる」という経験則です。
The complexity for minimum component costs has increased at a rate of roughly a factor of two per year… I expect that rate can continue until 1975.
Gordon Moore, Electronics Magazine (1965)
つまり、話を単純化すれば「6年前のパソコンは1/8 の性能しかない」ということになります。
一方、「ウィルトの法則(Wirth’s Law)」という、「ソフトウェアは、ハードウェアの性能向上よりも速く遅くなっていく(getting slower more rapidly)」という経験則も知られています。
Software is getting slower more rapidly than hardware becomes faster.
Niklaus Wirth, “A Plea for Lean Software” (1995)
つまり、すごいスピードでパソコンの性能は上がっているものの、ユーザーにとっては最新のパソコンでも性能の向上はなかなか体感しにくいです。
しかし、古い世代のPCは新しいソフトウェアの要求に急速に対応できなくなっていきます。
特に、パソコン初心者の場合は、必要スペックの見極めが困難で、トラブルやセキュリティリスクへの対応ができません。
2-3. 同時並行処理で必要なメモリが増えている
Windows 11のパソコンでは、動作に必要なメモリは以前よりもだいぶ増えています。
文書作成やインターネット閲覧のような一般的な用途でも、「快適」に動作させるには 8GB、できたら 16GBのメモリが推奨されるようになっています。
同時にたくさんのタブを表示させることが多いからです。
中古パソコンでは最低要件のメモリ 4GBのパソコンも多いです。
確かに、その中古パソコンが販売されたころ(Windows 7 や 8.1 などを動作させていたはず)には、「4GB」でも十分でした。
しかし、そのようなパソコンになんとか Windows 11を入れても、かなり動作が重くなってしまいます。
ただし、メモリはあとから追加できるので、決定的な要因ではありません。
3. セキュリティのシステム要件
Windows 11では要求性能が倍以上になりました。
もう一つ重要なのがセキュリティ関係の追加要件です。
特に重要な変更点は、TPM 2.0の必須化です。
これらはセキュリティ強化が目的ですが、比較的新しいPC以外はアップグレードできない要因にもなっています。
つまり、古いパソコンの場合は、そのままでは Windows 11を入れられないことが多いです。
3-1. セキュリティのためのTPM 2.0がない
「TPM (Trusted Platform Module)」は、セキュリティ強化のための専用チップです。
特に重要なデータを暗号化して、一般的なファイルとは別に保管するためのものです。
Windows 11では、TPM 2.0を利用して、暗号化キーを安全に保管したり、ハードウェアレベルでの改ざん防止、BitLockerドライブ暗号化のサポート、Windowsログインの保護強化などの機能を追加しています。
TPM 2.0は2014年頃から搭載され始め、2016年以降に発売された多くのビジネス向けパソコンに標準搭載されています3。
一般消費者向けパソコンでも徐々に普及が進み、Windows 11の発表(2021年)以降は、ほぼすべての新規パソコンに搭載されるようになっています。
逆に言えば、2016年以前は TPM 2.0が搭載されていなかったり、無効化されていたりするパソコンも多く、Windows 11へのアップグレードができない主な要因となっています。
4. むりやりインストールできるが…(レジストリ設定)
しかし、基準を満たさないパソコンでも、Windows 11が動いていることがあります。
Windows 11 を強制的に動作させる方法が存在しているからです。
レジストリ(Windows の設定データベース)を変更すると、TPM、CPUのチェックなしにアップグレードやインストールできます。
個人使用の場合、Windows 11の動作要件を満たさないパソコンでも自己責任で利用可能です。
パソコンって自由度が高いんだね。
ただし、これは Microsoftが推奨していない方法。
インターネットから切り離した環境で利用するなど特殊な用途を想定したもので、一般的な利用には適していません。
- Microsoft が認めていないシステムの不安定化リスク
- アップデートの保証がなく、セキュリティ機能の無効化につながる可能性
しかし、一部の業者は、古い非対応のパソコンにWindows 11を強制インストールし、きちんと注意事項を説明しないまま販売していることがあります。
購入直後は問題なく動作するように見えますが、重要な更新プログラムを受け取ることができないため、正規の基準を満たしたパソコンと比べて、動作の不具合やコンピュータウイルスへの感染のリスクが高くなります。
4-1. 【注意】「不適切」な販売はリアルでもネット販売でも
このようなリスクは、シニア世代だけではありません。
不適切なPC販売は、個人間取引のフリマサイトやオンラインマーケットプレイスでも発生していて、若い世代でも間違って購入する事例は少なくありません。
例えば、メルカリやAmazonなどのような一般的なネット通販サイトでも、悪質な販売者による出品があります。
中古パーツの寄せ集め品を「高性能ゲーミングPC」と称して販売していた事例や「〜認定整備品」と勝手に自称して非対応PCの販売していた事例などがあり、中古パソコンの購入には注意が必要です。
悪質な場合には、不正なライセンスを使用している可能性もあります。
商品説明の真偽を見分けるには専門的な知識が必要です。
結局、信頼できる販売店で購入した方が悩みは少ないかもしれません。
「目利き」ができないのに「骨董品」や「儲け話」に手を出すようなもんだね。
(補足)
- 国税庁のガイドラインによると、パソコンの法定耐用年数は4年です。これは、固定資産税や法人税を計算するために用いられる耐用年数です。- 2100_01.pdf
- 購入を検討しているCPUがもっと具体的に決まっていれば、ベンチマークスコアを比較します。
- 今夏からWindows 10 PCはTPM 2.0搭載が必須に – PC Watch
- 【TPM 2.0回避】Windows11正式版を古いパソコンにインストールしてみました | 大阪狭山びこー大阪狭山市の地域情報サイト(2021.10.05)
- 古い世代PCにWindows11をインストールする | TechnicaLife (2023.12.28)
- 【Microsoft公式情報+α】互換性チェックを回避してWindows 11にアップグレードする方法:Tech TIPS – @IT(2021年10月13日)