「プログラム」と「AI」の違い(従来型プログラムと機械学習ベースのAIプログラム)

「プログラム」と「AI」の違い(従来型プログラムと機械学習ベースのAIプログラム)
  • 従来型プログラムは決まった手順に従い予測可能な結果を出しますが、AIプログラムはデータから学習し新しい状況に対応できるのが特徴です。
  • 人間に打ち勝つようなコンピュータプログラムは、チェスのDeep Blueから囲碁のAlphaGoへと進化しました。
  • 現在のAIブームは、コンピュータの性能の向上、ビッグデータの出現、深層学習の登場によって、過去のブームよりも社会に大きな影響がありました。
「プログラム」と「AI」の違い(従来型プログラムと機械学習ベースのAIプログラム)

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1. チェスの名人Deep Blueと囲碁の達人AlphaGo

コンピューターが人間の知的能力に挑戦する歴史の中で、チェスのDeep Blueと囲碁のAlphaGoは重要な転換点となりました。

人間に打ち勝つコンピュータプログラム
  • Deep Blue
    1997年、チェスの世界チャンピオンに勝利
    計算処理で最善手を探す
  • AlphaGo
    2016年、囲碁のプロ棋士に勝利
    深層学習で最善のパターンを選ぶ

1-1. 計算アプローチの限界

Deep Blueは1997年、チェスの世界チャンピオンであるガルリ・カスパロフに勝利しました。
このシステムはチェス専用に設計され、人間の専門家が作成したルールに基づいて動作しました。

Deep Blueの強みは、膨大な数の手を高速で計算し、最適な一手を選ぶ能力にありました。
しかし、この方法では人間の囲碁のプロには勝てませんでした。

その理由は、囲碁とチェスの「複雑さ」の違いにあります。
チェスは比較的盤面が小さく、ゲームツリーの分岐も囲碁ほど複雑ではありません。
一方、囲碁は19×19の大きな盤面を使用し、可能な手の数が膨大です。

このため、単純な力任せの計算では、現実的な時間内に十分な深さまで探索することができません。

計算アプローチの限界

囲碁AIの ブレークスルーには、異なるアプローチが必要でした。

1-2. 深層学習による新しいアプローチ

そこで登場したのが、AlphaGoに代表される機械学習、特に「ディープラーニング(深層学習)」を活用したAIです。

ディープラーニング

ディープラーニング(深層学習)」は、多層のニューラルネットワークを使って、大量のデータから自動的にパターンや特徴を学習する仕組みです。
人間の脳の仕組みを模倣した人工知能の一種で、画像認識や自然言語処理など、複雑なタスクで高い性能を発揮し、現代のAI革命の中心的な技術となっています。

AlphaGoは2016年に世界最強の囲碁棋士の一人である李 世乭(Lee Sedol)に勝利しました。

AlphaGoは、Deep Blueとは全く異なるアプローチを取りました。
大量の対局データから学習し、さらに自己対戦を通じて新しい戦略を「生み出す」能力を持っていました。

深層学習による新しいアプローチ

コンピューターが単なる計算機から、学習し「生成」する存在へと進化したことを示しています。

2. 思考と学習の仕組みの違い

機械学習ベースのAIもプログラムの一種です。
しかし、一般のプログラムとは大きく異なる特徴があります。

AIプログラムの特徴
  • 従来のプログラム
    決定論的アプローチ
    定義されたルールや手順に従う
    未知の局面に対応できない
  • 機械学習ベースのAIプログラム
    確率論的アプローチ
    学習したパターンから可能性を考える
    判断過程は「ブラックボックス」
思考と学習の仕組みの違い

この違いを理解することで、AIがなぜ革新的なのかが明確になります。

AIプログラムは学習能力、適応性、確率論的判断、継続的改善という特徴を持ち、これらが従来のプログラムとの大きな違いとなっています。
これらの特性により、AIは複雑で変化の激しい現実世界の問題に、より柔軟に対応することができるのです。

2-1. 具体的な手順を「プログラム」するやり方

プログラム」とは、事前に決めた手順のことです。
これは料理のレシピに似ています。

従来のプログラムは、開発者が明確に定義したルールや手順に従って動作します。
例えば、「もしAなら、Bをする」というような指示の集まりです。
決まった手順を順番に実行し、同じ入力に対しては常に同じ結果を出します。

例えば、

電卓アプリは決められた計算ルールに基づいて結果を出力します。
これらのプログラムは、入力に対して予測可能で一貫した結果を提供しますが、プログラムされていない状況には対応できません。

2-2. 無秩序から「パターン」を学習するやり方

一方、深層学習のAIプログラムはデータから学習し、パターンを見つけ出して判断を下します。
これは、人間が経験から学ぶ過程に似ています。

例えば、

画像認識AIは、多数の画像を学習することで、未知の画像でも物体を識別できるようになります。

プログラマーが全ての可能性を事前にコーディングするのではありません。
はじめはランダムに動作しますが、大量のデータから「どの選択がより望ましい結果になったか」集計し、その判断精度を上げていくのです。

そのため、同じ入力でも状況に応じて異なる判断を下すことがあります。

無秩序から「パターン」を学習するやり方

この学習プロセスにより、AIは新しい状況や予期せぬ入力にも対応できる柔軟性を獲得します。

3. 決定論的な判断と確率論的な判断

両者の本質的な違いは、決定の仕方です。

従来のプログラムは「もし〜ならば」という論理的な条件分岐で決定を下します。
決定論的なロジックに基づいて動作するのです。
プログラムの動作は完全に予測可能で、その過程を追跡し説明することが容易です。

一方、機械学習のAIプログラムは確率や統計的モデルを使って判断します。
不確実性を考慮し、その時点で最も可能性の高い結果を提示します。

決定論的な判断と確率論的な判断

このような手法が取られたのは、より複雑で曖昧な状況で判断を下すためです。

3-1. 継続して学習していく

さらに、多くのAIシステムは継続的な学習能力を持っています。

従来のプログラムは新しい状況に対応するには、人間が手を加える必要があります。
しかし、AIは新しいデータから学習し、未知の状況にも対応できる可能性があります。

継続して学習していく

これは、一度完成すると変更が難しい従来のプログラムとは大きく異なる特徴です。

3-2. 問題解決とブラックボックス

これらの違いから、コンピューターの役割が「指示の実行者」から「自律的な問題解決者」へと変化しているのかもしれません。

AIの登場により、コンピューターはより「人間的な思考と判断」を行うようになったのです。
ただし、この柔軟性と学習能力には、AIの判断プロセスを理解しにくくする側面もあります。

問題解決とブラックボックス

従来のプログラムでは、その動作を完全に追跡し説明することが可能ですが、複雑なAIモデル、特にディープラーニングを用いたものは、しばしば「ブラックボックス」と呼ばれ、その判断過程を完全に解明することは難しいことがあります。

4. なぜ、AIが台頭したのか

AIの歴史は1950年代に遡りますが、現在の台頭に至るまでには、いくつかのブームと停滞期がありました。
これらの経緯を踏まえつつ、現在のAIブームの要因を探ります。

AIブーム
  • 第一次AIブーム
    (1950年代後半〜1960年代)
    「人工知能」の概念が生まれる
  • 第二次AIブーム
    (1980年代)
    「エキスパートシステム」の登場
  • 第三次AIブーム
    (2010年代〜)
    深層学習と生成AIの実用化

4-1. 第一次AIブーム(1950年代後半〜1960年代)

コンピューターが登場し、「人工知能」という概念が生まれました。
この時期は、単純な問題解決や定理の証明などで成果を上げましたが、複雑な現実世界の問題に対応できず、ブームは終息しました。

4-2. 第二次AIブーム(1980年代)

エキスパートシステム」の登場により、AIが再び注目を集めました。
人間の専門知識をルールとしてプログラムに組み込むことで、特定の分野で人間に匹敵する性能を発揮しました。
しかし、知識の獲得や更新の困難さから、このブームも終わりを迎えました。

4-3. 現在の第三次AIブーム(2010年代〜)

現在のAIブームは、過去のブームとは質的に異なり、より持続的で広範囲な影響を持っています。
その理由には以下のような要因があります。

  1. コンピューティングパワーの飛躍的向上:
    ムーアの法則に従ったプロセッサの性能向上に加え、GPUの活用や分散コンピューティングの発展により、複雑なAIモデルの学習と実行が可能になりました。
  2. ビッグデータの出現:
    インターネットやIoTの普及により、膨大な量のデータが利用可能になりました。
    これにより、AIの学習に必要な大量のデータが確保できるようになりました。
  3. クラウドコンピューティングの成熟:
    大規模な計算資源を必要に応じて利用できるようになり、個人や小規模な組織でも高度なAI開発が可能になりました。
  4. 機械学習アルゴリズムの革新:
    特に深層学習(ディープラーニング)の登場により、画像認識や自然言語処理など、従来は困難だったタスクでAIが人間に匹敵する、あるいは上回る性能を発揮できるようになりました。
現在の第三次AIブーム(2010年代〜)

とりわけ重要なのは、「深層学習(ディープラーニング)」の登場です。

これらの要因が重なり合うことで、現在のAIブームは過去のものとは異なる持続性と影響力を持つに至りました。
AIは急速に発展し、私たちの生活や仕事に大きな影響を与えるようになりました。

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