NFTは、「デジタルデータの所有」を保証する暗号技術です。
しかし、デジタルデータの「所有」を、どう社会生活に役立てるのかは、まだ不透明です。
一方で、最近の技術進歩では、デジタルデータは「所有」より「利用」に関心が移っているからです。
1. NFTは保証書
「NFT(Nonfungible token:非代替性トークン)」は、「デジタルデータの所有権を暗号技術で証明するためのデータ」です。主に、デジタルアートの売買で利用されることが想定されています。
ただ、NFT自体は、法的にはまだ不明瞭な仕組みです。デジタルデータの複製を制限する機能があるわけでもなく、「著作権」を譲渡するわけではなく、同じデータに複数のNFTを発行することも可能です。つまり、発行されたNFTは複製できなくても、デジタルデータへのNFTは無制限に発行できてしまいます。
いわば「保証書」のようなもので、「保証書」自体にどんな有効性があるのか、まだよくわかっていません。
1-1. NFTの投機的人気
ただ、暗号資産の投機的人気の過熱で、NFT も何かと話題になっていました。早期に購入することで、値上がりを期待する目論見があったからです。
小学3年生の、通称「Zombie Zoo Keeper(ゾンビ飼育員)」くんが生まれてはじめて自分で稼いだお金は、仮想通貨(暗号資産)「イーサリアム」だった。
しかもそれは、夏休みの自由研究でつくったピクセルアートを売って得たお金だった。そのアートは今、約80万円の価格で取引されている ── 。
【NFT狂想曲】なぜ、小学3年生の夏休みの自由研究に380万円の価値がついたのか | Business Insider Japan(2021-09)
2. ブームの一段落
ただし、そのブームが一段落していることが、いろいろなデータから明らかになっています。
2-1. 市場規模・売買価格
ほんの数か月前、データWebサイト、NonFungibleによると、非代替トークン(NFT)の売り上げは過去最高を記録していました。しかし、それ以来、市場は横ばい状態にあり、今週の時点でNFTの売上高は昨年9月と比較して92%減少し、多くの所有者が支払った金額よりもはるかに少ない価値のデジタル資産を残しています。
NFT Sales Are Flatlining. Is This the Beginning of the End? – The Wall Street Journal Google Your News Update – WSJ Podcasts(2022-05)より和訳
この背景としては、短期間の間に、購入を希望する人を上回るNFTが出品されたことが挙げられています。
非常に急速に普及したため、供給が需要を圧倒したことです。これらのものが900万を超えて作成され、購入者が200万未満であるというデータを取得しました。
2-2. 暗号通貨アプリの新規ダウンロード数
このような流れを受けて、アプリのダウンロード数なども落ち着いています。ユーザー数は、維持しているものの、新規ダウンロードは鈍化しています。
Apptopiaのデータによると、世界の上位50の暗号通貨アプリのダウンロード数は、昨年11月から64%も減少したという(ただし、同期間の月間アクティブユーザーの減少率はわずか6.5%で、この数値は、これらのアプリが既存ユーザーをつなぎとめていることを示している)
2-3. 検索ボリューム
人々の興味は、検索数にも現れます。
「Googleトレンド」で検索の変化を見てみます。日本では依然として高い水準になっています。
一方、アメリカ合衆国では、より鈍化が急になっています。
つまり、現状、NFTはアーリーアダプター(初期導入層)には行き渡った段階で、多くの新技術と同様に、このあと一般に普及していくかの岐路に立っているわけです。
3. デジタルデータの所有とライセンス
このニュースを取り上げたのは、「所有」の形の変化について興味深いからです。
デジタルデータは、簡単に複製することができる性質があるため、インターネットが普及して以降は、「所有」ではなく「利用権(ライセンス)」を重視するようになってきました。
例えば、アプリケーションソフトは、DVD-ROMがあっても、ライセンスがなければ、利用できません。
音楽やイラスト素材などを購入する場合も、入手するのは「ライセンス」です。決められた範囲で利用できる、という権利です。
ただし、このような「ライセンス」には、(基本的に)「譲渡できない」という制限があります。
確かに、電子書籍の「中古」はないね。
NFTは、このようなデジタルデータに、改めて「所有」や「転売」の仕組みを導入しようとするものです。
3-1. ソーシャルゲームの「資産」
このようなデータの「所有」が要請された背景には、インターネット上で多数の人が参加する「ソーシャルゲーム」の存在があります。
ソーシャルゲーム内の武器やキャラクターは、「希少性」が設定され、時間や労力、金銭を注ぎ込まないと手に入らないものが少なくありません。
このようなデータは、ゲーム内では有利であったり、一目置かれる「ステータス」になります。
そこで、ルール上は禁止されていても、そのようなデータやアカウントを売買するケースが出てきました。これを「リアルマネートレード」といいます。
つまり、仮想現実の世界でも、「資産」がすでに自然発生しているのです。
ところが、ゲーム内資産は、ゲームサービスが終了すると、消えてなくなってしまいます。
これが、アナログのカードゲームなら、カードそのものにプレミア価格が付いて、高額で転売することができます。
そこで、ソーシャルゲームにおいても、ユーザーがデータを「転売」できる仕組みが望まれるようになるわけです。
ただし、もうゲームでも使えないデータの場合、「所有」しても記念なだけで、いわば「甲子園の土」のような気もするよね。
3-2. サブスクリプションとシェアリングエコノミー
一方で、デジタルデータを所有すらしない形も普及してきています。例えば、「音楽データを購入する」から「音楽サービスに登録する(サブスクリプション)」という仕組みが広がってきました。
データを所有しなくても、利用できれば十分だからです。
モノでも、「シェアリングエコノミー」といって、所有せず、必要なときだけ借りる、という取引が、インターネット技術によって可能になりました。
確かに、最近の人気のサービスは、「Uber」とか、「所有よりシェア」が主流だよね。
3-3. NFTの付加価値とは?
これは当たり前のことですが、どんなデータでもNFTにすれば「価値が生まれる」ということはありません。「より具体的なものを提供する(they’re going to become more utilitarian.)」必要があります。
将来的には、デジタルJPEGを大量に作成して販売し、大量のお金を稼ぐことができなくなるということだと思います。ユーザーに非常に具体的なものを提供する必要があります。
NFT Sales Are Flatlining. Is This the Beginning of the End? – The Wall Street Journal Google Your News Update – WSJ Podcasts
例えば、音楽バンドでは、NFTに楽屋案内やディナーの権利など、付加価値を付ける工夫が見られ始めているそうです。
今後の社会の仕組みが、どういう方向に変化していくのか、興味深いです。
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